トモニテ
母乳を飲む赤ちゃん

【小児科医ママに聞く】Q. 母乳はいつまであげていいの?

A. 子どもが「母乳はいらない」と言うまで与え続けても大丈夫です

 母乳は、子どもがほしがるなら、いつまででもあげてかまいません。

 以前の母子手帳には、1歳と1歳6か月の記録欄に母乳の中止を促すような記載があり、1歳6か月健診の際にまだ母乳を続けていると「そろそろやめましょう」という指導が行われていました。しかし、その年齢で母乳をやめるべきだという説には医学的な根拠がなく、さらに母乳育児の利点がわかってきたので、2002(平成14)年に、「断乳」という言葉は母子手帳からなくなったのです。その代わりに「卒乳」という言葉が使われ始め、子どもが自分から 母乳をいらないと言うまで続けてよいというように医療者の考えは変わってきました。

 卒乳の時期は国によってさまざまですが、およそ2〜4歳。ほかの哺乳類とヒトを比べると3〜7歳まで母乳をあげるのが自然だとのことです(※1)。

 WHOは、なるべく2歳までは母乳を続けるようにすすめています。ほかの哺乳類と違って、 ヒトは咀嚼や嚥下がまだ上手ではない子どもに適した食事を作ることができるので、母乳や粉ミルクを比較的早くやめることは可能ですし悪いことではありません。が、だからといって、 早くやめなくてはいけないということではないのです。

 ところが、まわりの人に以下のように言われるお母さんも多いと聞きます。

①「1歳を過ぎたら母乳は栄養がなくなるからやめなさい」

②「母乳は歯に悪いよ」「噛まれると痛いからやめたほうがいい」

③「母乳をやめると朝まで寝てくれるよ」

④「食事を食べなくなるから母乳はやめたほうがいい」

⑤「次の妊娠を希望するならやめるべき」「妊娠中の授乳はお腹の子に悪い」

 こうしたアドバイスは、どのくらい本当なのでしょうか。

 ①の母乳の栄養がなくなるというのはナンセンスです。産後1年が過ぎても、母乳に含まれるたんぱく質、脂質、糖などの量が極端に減ることはありません(※2)。固形の食事も必要ですが、母乳からも栄養は得られます。

 ②についていえば、母乳中の乳糖では虫歯にはなりません。虫歯は、歯の性質、食べかす、ショ糖(砂糖) の三大要因が揃ったときに発生します。ただし、離乳食を食べ始め、口にする食品が増えると口内環境が変わるので、母乳でも虫歯には注意しなくてはいけません。寝る前には必ず歯ブラシで磨きましょう。

 お子さんに乳首を噛まれて痛いときは「痛いから、噛むのをやめて」と何度でも伝えてください。数回噛まれたとしても、その後は噛まなくなる場合もあるようです。

 ③の母乳をやめたらよく寝てくれるという説も、個人差があるので不確かです。母乳をやめたからといって、朝までぐっすり眠ってくれるという保証はありません。反対に、母乳をやめたら寝かしつけに苦労するようになったという話も外来でよく聞きます。

 ④前述のように母乳をやめたからといって食事量が増える保証もないので、それを理由に卒乳を促す必要はないでしょう。

 ⑤については、確かに母乳をあげているあいだは妊娠しづらくなります。受胎能力は、授乳の頻度、授乳時間の長さ、授乳間隔、児の吸啜の強さ、補足物(糖 水、人工乳など)や離乳食を与えているかどうかなどの授乳状況に左右されるものです。 卒乳したからといって必ずしも妊娠するとは限りませんが、頻繁に授乳している場合は少し減らしたほうがいいでしょう。

 なお、授乳中に妊娠した場合も、特にトラブルがなければ授乳をやめなくても大丈夫です。 流産や早産の原因になると言われることがありますが、証明されてはいません(※3)。また、母乳を与えているかどうかにかかわらず、流産や早産は10〜15%の確率で起こります。直接母乳を飲ませるとオキシトシンという子宮収縮ホルモンが分泌されますが、妊娠初期・中期にはあまり影響はありませんから、安心してくださいね。もしも妊娠後期に、直接授乳のたびにお腹が張るようだったら、それがすぐに流産や早産に繋がるわけではありませんが、念のためやめておきましょう。母乳以外のスキンシップにとどめます。

 繰り返しになりますが、子どもが自然にいらないと示す「自然卒乳」まで母乳を続けるというのは悪いことではありません。幼児期までの子どもがお母さんにべったりくっつく、母乳をほしがるというのは自然なことです。

 それなのに、お母さんから無理に離そうとすると、しがみつきがひどくなることがあります。 意図的に卒乳させたりしなくても、なんとなくやめられる場合もあるので、お子さんの様子を見ながらにしましょう。

※1 平林円『周産期医学』2009 vol.3増刊 p712

※2 米山京子ほか『日本公衆衛生雑誌』1995 第2巻7号 p472-481

※3 金森あかね『母乳育児支援スタンダード第2版』医学書院2015 p429-433

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