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子宮内膜症があると妊娠しにくいの?

【医師監修】子宮内膜症があると妊娠しにくいの?

子宮内膜症に伴いやすいとされている不妊症。
すべての原因がはっきりとはわかってはいませんが、排卵、受精、着床と妊娠の各段階でトラブルが生じているとされています。とはいえ、自然に妊娠、出産するケースも。今回は、子宮内膜症と妊娠の関係や、治療についてお伝えします。
子宮内膜症に伴いやすいとされている不妊症。
すべての原因がはっきりとはわかってはいませんが、排卵、受精、着床と妊娠の各段階でトラブルが生じているとされています。とはいえ、自然に妊娠、出産するケースも。今回は、子宮内膜症と妊娠の関係や、治療についてお伝えします。

子宮内膜症とは?

子宮内膜症とは、子宮の内側にある子宮内膜とよく似た組織(子宮内膜様組織)が、子宮の内側以外の場所にできる病気です。多くは子宮の近くの卵巣や腹膜、ダグラス窩という場所にみられています。まれに肺などの子宮から離れた場所に発生することもあります。

子宮内膜は、女性ホルモンの影響を受けて月経の周期に合わせて増殖します。受精卵が着床しなかった場合にははがれ落ちて腟から排出されます。これがいわゆる月経(生理)です。しかし子宮の内側以外に子宮内膜様組織が増えた場合には、そのはがれ落ちた血液が外に出ていく場所がありません。

そのため炎症を起こしたり、臓器が癒着(ゆちゃく)してしまうことがあります。

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出典:「Illustrated Guidance 子宮内膜症 2015年改訂版」(先端医学社)

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出典:「Illustrated Guidance 子宮内膜症 2015年改訂版」(先端医学社)

詳しい子宮内膜症の症状は以下の記事も参考にしてみてください。

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毎回月経(生理)が来るたびに訪れるおなかの痛みや不快な症状。当たり前だと思って我慢していませんか?月経に伴い腹痛、排便痛などがある場合「子宮内膜症」かもしれません。適切な治療をすることで症状が落ち着き、進行を防げます。まずは症状をセルフチェックしてみませんか?

子宮内膜症があっても妊娠できる?

子宮内膜症の代表的な症状が月経困難症と不妊症です。

しかし子宮内膜症があるからといって妊娠しない、というわけではありません。

子宮内膜症では約半数の人が不妊症を併発していますが、子宮内膜症があっても無事に妊娠、出産を迎える人は多くいます。

とはいえ、月経痛などの症状があるのにそのままにしておくのはおすすめできません。子宮内膜症は月経(生理)を繰り返すほど進行していくため、気になる症状がある場合や妊娠を希望している場合には、早めに婦人科を受診しましょう。

月経困難症とは

月経に伴って起こる不快な症状のことをいいます。下腹部痛、腰痛、腹部膨満感などさまざまな症状があります。

不妊症とは

妊娠を望む健康な男女が、避妊をせずに夫婦生活(セックス)をしても一定期間妊娠をしない場合をいいます。一定期間とは年齢によるところもありますが、1年とされています。

不妊症の原因は男性側、女性側、どちらもほぼ同じくらいの割合でみられていて、子宮内膜症だけが妊娠しにくい原因ではありません。いくつかの要因が重なっていることもあります。そのため原因を知るためにも女性だけでなく、パートナーも一緒に検査を受けることが望ましいとされています。

子宮内膜症があるとなぜ妊娠しにくいの?

子宮内膜症による不妊症の原因のすべてがはっきりとはわかっておらず、さまざまなものがあるとされています。

しかし子宮内膜症が生じる場所によって、排卵、受精、着床などと、妊娠の各段階で問題が生じることが考えられています。

たとえば子宮内膜症が進むと、卵巣や卵管、それぞれの働きが悪くなってしまいます。卵胞の発育や、卵子の取り込みがうまくいかなくなること、卵管の中を受精卵が移動しにくくなってしまうことなどが不妊症の原因として考えられます。

ほかには、子宮内膜症ではおなかの中(腹腔内)に炎症を起こし環境が悪くなることで、受精や着床の障害となってしまうことなどが考えられています。

また直腸と子宮の間などに病変があり、強い性交痛が症状としてある場合には、性交自体に苦痛を感じてしまうこともあるでしょう。

子宮内膜症があるときの妊娠率は?

子宮内膜症を患う約30〜50%の女性が、不妊症であるとされています。

また、特にトラブルのない健康な女性では月に15〜20%ほどが妊娠するのに対して、子宮内膜症の女性では月に2〜10%に低下するというデータもあります。

子宮内膜症があるときの不妊症の治療は?

子宮内膜症があるときの不妊症の治療は、年齢や不妊の期間、子宮内膜症の重症度によっても変わります。

子宮内膜症のためのホルモン療法は排卵を止めるため、すぐに妊娠ができません。また、不妊治療として排卵誘発剤を使用した場合には、女性ホルモンの影響を受けて子宮内膜症が悪化する可能性があります。このようにおたがいの治療が逆の方向にすすむことになります。

そのため、まずは鎮痛剤で子宮内膜症の痛みをおさえて、タイミング療法を行い妊娠を目指します。しかしタイミング療法を続けてもなかなか妊娠しないときには次は腹腔鏡下手術を考えます。

卵巣の部分がチョコレート嚢胞(※)となっていて排卵を邪魔していそうなケースでは、腹腔鏡下手術で癒着している部分などを取り除いてから、タイミング療法で妊娠を目指します。その後排卵誘発剤や人工授精に進むことも。

明らかに癒着が進んでいたり、年齢が高い場合には卵巣機能のことも考える必要があります。早めの妊娠を目指し、手術をせずにすぐ体外受精などの生殖補助医療に進むこともあります。

治療には個人差がありますので、主治医とよく相談して進めるとよいでしょう。

チョコレート嚢胞(のうほう)

卵巣にできた子宮内膜症のことです。進行すると卵巣に血液がたまり、溶けたチョコレート状に見えることから卵巣チョコレート嚢胞とよばれています。

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子宮内膜症があると必ず妊娠しないというわけではありません。しかし、子宮内膜症が進んでしまうと妊娠によくない影響が考えられます。将来的な不妊症の予防のためにも、早めに受診し必要に応じて治療を開始できるとよいでしょう。

参考:

・百枝幹雄(著者)、『よくわかる 最新医学 子宮内膜症』、主婦の友社、2017年

・岡井 崇、綾部 琢哉、(編集)、『標準産婦人科学 第4版』医学書院、2011年

・日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)、『子宮内膜症Fact Note 』、2013年(2020年10月12日閲覧)

写真提供:ゲッティイメージズ

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