トモニテ
子どもを褒める母親

【児童精神科医ママに聞く】Q. 子どもを上手にほめるコツを知りたい!

A. ペアレントトレーニングと行動分析学を活用してみましょう

 ときどき診察室でお母さんやお父さんから、「子どもはほめて育てるのがいいって言われるけど、うちの子はほめるところがなくて......」「どんなふうにほめたらいいのか、よくわかりません。ほめても別にうれしそうにもしないし」などと相談されることがあります。そこで、 いつどこをほめるか、どうやってほめるかの2点についてふれてみたいと思います。

いつどこをほめる?

 1974年にアメリカで誕生した『ペアレントトレーニング』という、ご両親向けの子育て の手法があります。ペアレントトレーニングでは、子どもの行動を『してほしい行動』『してほしくない行動』『許しがたい行動』の3つに分けます。そして親が子どもの『してほしい行動』 に気づき、ほめて注目を与えることを練習していくというものです。

 ただ『してほしい行動』をリストアップして、子どもをほめるタイミングを待っていても、 機会がないと思うかもしれません。たとえば小学生なら「学校から帰ったら、すぐに宿題をする」という行動は『してほしい行動』に入りそうですが、帰宅するなりマンガを広げる姿を見たら、「宿題は後まわし?」とイライラしてしまいそうです。帰宅後すぐにマンガを読むとい う行動は、親にとって『してほしくない行動』。ペアレントトレーニングでは『してほしくない行動』には反応せず、『してほしい行動』に切り替わってほめるチャンスが訪れるのを待つのがルールです。「先に宿題をする約束でしょ?」なんて声はかけずに、じっと待ちます。

 さて、子どもがマンガを閉じて立ち上がったら......、ほめるチャンス到来です!
 「あ、宿題を始めるの? えらいね!」...①
 こんなふうに親に言われたら、たとえ遊ぶつもりだったとしてもブレーキがかかりそうですね。行きがかり上、ランドセルから勉強道具を取り出し始めたら、 またすかさず声をかけます。
 「自分から宿題を始めるなんて、すごいね〜」...②
  いよいよ宿題をするしかなくなった子どもがやり始めたら、「今日も大変そうだけど、がんばるんだね」...③
  「どのへんまで進んだ? お、早い!」...④
 などと通りすがりに声をかけます。もし誤字や計算ミスに気づいても、ひとまずスルーして、
  「字もていねいに書けてるね〜」...⑤
  そして最後までやり終えたら、
  「もう終わったの? 集中して一気に終わらせたんだね。お疲れさま!」...⑥
  などと声をかけることができそうです。

 こう考えてみると、宿題をする場面ひとつを取っても、ほめるタイミングはたくさんあります。

①『してほしくない行動』をやめたとき

②『してほしい行動』に自発的に取りかかるとき

③『してほしい行動』を開始したとき

④『してほしい行動』を持続しているとき

⑤ 少しくらい間違っていても、『してほしい行動』に取り組んでいるとき

⑥してほしい行動をやり遂げたとき

 この例で親が『してほしい行動』は、学校から帰ったらすぐに宿題をすることでした。子どもが取った行動は少し違いましたが、改めて考えると期日に提出できるようにやれば、何も帰宅してすぐ宿題をすませる必要はないかもしれません。 親が子どもに対して思う「こうあってほしい」「こうでなくてはいけない」という理想を少し緩めることで、ほめるきっかけがたくさん見えてくるということもありそうです。

 ここでは宿題を例にあげましたが、兄弟姉妹と仲よく過ごせているとき、食事を残さず食べたときなど、日常生活の中で子どもに『してほしい行動』をたくさんイメージし、すかさずほめられるよう準備を整えておくと、いつどこをほめるかで悩まなくてもよさそうです。

どうやってほめる?

 ほめるタイミングと内容をつかんだら、次に「どうほめるか」を考えてみたいと思います。 行動分析学(応用行動分析)では、ほめ方は大きく分けて次の4つに分類されています。

①言葉をかける

②スキンシップをする(抱きしめる、頭をなでるなど)

③品物を与える(おもちゃ、絵本など)

④飲食物を与える

 ①や②のように親子関係や親しい人とのつながりの中でほめられることを『社会的強化子』と呼び、③や④のように物を与えられることでほめられることを『物質的強化子』と呼びます。 強化子とは、子どもが行動した結果として得られる、子どもの好きな物・よろこぶ物・満足する物です。強化子は、子どものした行動を強化する(増やす) 効果を持っています。

 これらの4つは、子どもの発達の順序を考えると幼いうちは④、それから段階を踏んで③→②→①の順に強化子として受け取れるようになります。たとえば、まだ言葉がわからない段階 の子どもを言葉だけでほめても効果は低いですが、成長するにつれて言葉や笑顔だけでもうれしく感じるようになります。ですから、子どもの発達段階に応じたほめ方(強化子の与え方) をすることが大切です。そして品物でも飲食物でも、その子は何が好きなのか(何が強化子になるか)をしっかり見極めて使う必要があります。

「お菓子をエサにするなんて、動物に芸を仕込むみたいでイヤ」「子どもをおもちゃで釣って、 要求がエスカレートしたらどうするの?」などと感じる人もいるかもしれません。私も物質的強化子を与え続けるのはよいことだとは思いません。でも、子どもがうれしいと感じ、またがんばろうと思えるようなほめ方をするという目的の本質を考えると、やはり一時的には必要で有効なことだと思います。そして物質的強化子だけを淡々と与えるのではなく、必ず「よくがんばったね。すごい!」と一緒によろこんで、抱きしめたり頭をなでたりしてくださいね。

 ちなみに子どもをほめるときは、歯の浮くような言葉を使ったり、ご機嫌を取ったりする必要はありません。ほめていることが伝わらなくては意味がありませんが、うれしいという気持ちを共有し、一緒によろこべるような言葉をかければいいのです。ほめ慣れていないと、照れくささも手伝って「珍しいこともあるものね」などと皮肉めいた言葉が出てしまうかもしれませんが、気持ちよく受け取れる言葉にしてあげてくださいね。それが難しければ、「よかったね!」「がんばったね!」などのシンプルな言葉がけにしておくほうがいいと思います。

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