【児童精神科医ママに聞く】Q. 子どものしつけの仕方がわかりません
しつけとは、生活習慣や社会のルール、マナーを教えること。 いつ始めるべきかはっきりした目安はありませんが、少なくともルールを理解できない1歳以下の赤ちゃんには不要です。また、しつけを始める前に、基本的信頼感と自己肯定感という土台を育てることが大切といえます。そうして築いた土台の上に、 しつけをしていきます。子どもが成長するにつれて『土台づくり』が占める割合は小さくなっていき、反対にしつけや勉強などによる『自分で生きていく力づくり』のウエイトが大きくなっていくというイメージです。
しつけで大切なのは、年齢(発達)に合わせて少しずつ教えていくこと、身近な大人が日頃からルールやマナーを守っている姿を見せることです。年齢(発達) に応じたしつけについてふれていきます。発達のスピードには個人差がありますし、一人ひとり性格も違うので、年齢や月齢などはあくまでも目安と考えてくださいね。
1〜1歳6か月
規則正しい生活を送る、食事のときは座るなどの基本的な生活習慣を繰り返しやさしく教えます。まだできなくて当然なので、叱ったり強制したりしないでください。コップを持って飲む、着替えようとするなど、身辺自立のための基本的な動作も少しずつできるようになります。子どもが嫌がらない程度にサポートし、うまくできれば一緒によろこび、失敗しても「よくがんばったね」と健闘を称えてチャレンジ精神を育ててあげてほしいと思います。ただし、明らかに危険な欲求に対しては、「これは危ないからやめよう」などと伝えてくださいね。
喜怒哀楽が見られるようになり、思いどおりにならないと駄々をこねるなどの主張も出てくるようになります。まだ相手の都合に配慮した り、気持ちをうまく切り替えたりすることはできないので、親が違うものに注目させるなどして気持ちの切り替えを手伝ってあげてください。
友だちへの関心も高まりますが、自分の気持ちを伝えられないので、叩いたり噛みついたりすることもあります。子ども同士のけんかを 減らすには「やめなさい」と叱る以上に、日頃から親が子どもの感情に 「悲しいね」「うれしいね」などの言葉で共感を伝えることが有効です。
1歳6か月〜2歳
ほかの子と遊ぶようになりますが、同じ場所で同じ遊びをしているように見えても、まだ厳密には一緒に遊んでいるわけではなく、それぞれがひとり遊びをしている時期です(並行遊びといいます)。自分の物と他人の物の区別がわかり始めるので、順番を待つこともできるようになってきます。順番を待てたことや代わってあげたことなどに、その都度「よく待てたね」「ちゃんと代わってあげていい子だね」などと肯定的 な言葉をかけてあげると、習慣として身につきやすくなります。また意志がはっきりしてきて、自己主張することも増えますが、「Aにする?それともBにする?」などと大人から選択肢を与えて少し待ってあげると、気持ちの切り替えがしやすくなるようです。
トイレトレーニングも少しずつ始められるので、タイミングをみてトイ レに誘い、便器で用を足せたら「上手にできたね」とよろこんであげます。着替えや靴を履くことなどを自分でしたがるので、着脱しやすいものを選んだり、しゃがむ・寄りかかるなどの安定しやすい姿勢を教えたりして、成功体験につながりやすい環境を整えてあげてくださいね。
2〜3歳
より自立心が強くなり、反抗的な言動が出てきます。その場で頭ごなしに否定するのでも言いなりになるのでもなく、自由に主張させて耳を傾けたり、選択肢を与えて選ばせたりしてあげるとよいようです。また癇癪を起こしているときに「癇癪はよくない」と説明しても通じません。必要以上に注目せず、気持ちが落ち着くのを待って、別のことに誘うようにします。
そして親だけでなく兄弟姉妹や友だちとのかかわりの中でも、自分の意思を通そうとして衝突しやすい時期です。どの子にも正しい一面があると思うので、親に助けを求めてきたら、それぞれの言い分を受けとめて共感を示してあげましょう。そのうえで相手方の主張を代弁するように伝えれば、自分はどうすればよかったかを落ち着いて考えやすくなります。
また、お手伝いもしたがるようになります。かえって時間がかかっても、 なるべく「ありがとう。助かるな」と受け入れてあげてください。信頼する 大人の意図に沿いたくて、「食べていい?」などと行動前に確認することも出てきます。「いいよ」や「だめ」だけでなく、「聞いてくれてうれしい」ということを伝えると、ますますよい習慣を身につけてくれそうですね。
3〜4歳
自分で選択・実行する力をベースに、言動をコントロールする力が育ち、粘り強くがんばったり、がまんしたりすることも増えます。しかし思うようにできない葛藤のために癇癪を起こすことも。これは理想と現実に折り合いをつけるプロセスのようなものなので、強く叱ったり機嫌を取ったりするなどの過剰な反応をせずに待ってあげると落ち着きやすくなります。
また保育園や幼稚園に通う子どもが多くなり、ルールや約束を守りな がら集団生活を送れるようになってきます。友だちとの遊びでは、「かして」 「あとで」のような貸し借りや順番、交代などのコミュニケーションが言葉 を介して行われるようになります。もちろん「かして」と頼んでも「イヤ」と断られる場面もあるはずです。そのときは「いっしょにつかおう」や「あとでかしてね」などの言葉があることも教えてあげられるといいですね。
それでも、まだ社会のルールが十分に身についていないので、人の物を持ち帰るなど、間違ったことをする場合もあります。激怒したり子どもの人格を否定したりせず、なぜよくなかったのか、どうすれば挽回できるか、今後はどうすればいいのかを説明してあげましょう。
4〜5歳
言葉の理解力が高まるので、大人から説明される理由や事情を受け入 れ、自分の行動を変化させることができ始めます。一方で納得がいかない と、怒りや不満を表現してくるはずです。この頃になると、大人や友だち の言動を参考に、自分の行動を調節・修正するようになります。ですから、親が感謝や謝罪をあらわす、時間や約束を守るなど、よいお手本となることが大切です。
またトイレや着替えなど、自分でやろうとすることが増えますが、やはり失敗も多いはず。否定的な言葉や人格を傷つけるような言葉は使わず、 引き続きチャレンジ精神を称えて見守ってあげることが大切です。さらに親をよろこばせたいと思うようになり、お手伝いを積極的にするようになり ます。ほどよい役割を与え、感謝の気持ちを伝えてあげてください。
ご近所さんに自分からあいさつをする、友だちが転んだら手を貸してあげる......など、ルールとは言えないまでもできたほうがいい社会的スキルやマナーも少しずつ教え始めます。一度にたくさんのことを求めすぎず、できなくても責めないようにしましょう。
5歳〜就学後
一日の予定をイメージして行動したり、アナログ時計を頼りに時間の区切りをつけたりすることもでき始めます。事前に一日の予定を伝えてあげると、自信を持って行動しやすくなり、また就学後の時間割のある生活への準備にもなると思います。そして小学校に入学すると、学校でのルールは先生から学んでいくことになるので、親にできることは「学校では、先生の言うことをよく聞こう」という大原則を教えてあげることだといえそうです。
また小学生になれば、友だちの家に遊びに行く、お小遣いを持って買い物に行くなど、子どもだけで行動することも増えてくるでしょう。 ふだんから親が よいお手本を示すと同時に、あらかじめ少しずつ訪問や買い物などの日常生活のマナーを教えておくといいと思います。さらに中学生になれば、正しい敬語の使い方やレストランでのテーブルマナーなど、より大人に近い高度なマ ナーを習得できるようになるはずです。
こうしたスキルは一度に取得することはできませんが、より適切なやり方をおだやかに繰り返し教えてあげたり、うまくできたことをほめたりすることで徐々に身についていきます。
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