【医師監修】 高齢出産は帝王切開?自然分娩も選べる?
はじめに
分娩方法は大きく分けて2つ「経腟分娩」か「帝王切開」
赤ちゃんを産む方法は、大きく分けて経腟分娩と帝王切開分娩による分娩の2つです。
経腟分娩では、赤ちゃんがママの骨盤の中の産道を通り、腟から出てきます。
帝王切開分娩では 赤ちゃんは骨盤内の産道を通ることなく、ママの下腹と子宮の下のほうを切開して生まれてきます。
帝王切開分娩になる場合はどんなとき?
帝王切開術とは、ママの下腹と子宮を切って胎児を取り出す手術のことです。
一般的には胎児が産道を通れない、または通ることにより母子にリスクが生じるため、経腟分娩ができないときに選択されます。
分娩の種類やその方法について、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
高齢出産で帝王切開分娩になる理由は?
高年齢出産=帝王切開分娩とは限りません。しかし、出産時の年齢が上がるほど、帝王切開分娩になる可能性が高くなります。その理由を見てみましょう。
子宮筋腫などの婦人科疾患の場合
年齢を重ねていくと、婦人科系の病気にかかりやすくなります。
子宮筋腫もその1つで、切迫早産や前期破水、早産の一因になるほか、筋腫の位置や大きさによっては、腟を経由して赤ちゃんを出産する「経腟分娩」ができなくなる原因にもなります。
帝王切開分娩になった場合、出血量が多くなるため一般には子宮筋腫の切除は行わないことが多いです。しかし大きさや位置によっては、帝王切開術と同時に子宮筋腫を切除する手術行う場合がありますので、医師に確認してみましょう。
妊娠合併症の場合
妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの妊娠合併症は、生活習慣病(本態性高血圧症、糖尿病)があることで発症しやすくなります。
また、年齢を重ねると、妊娠前には何も合併症や高血圧、糖尿病がない方でも、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病発症の頻度が高くなります。
妊娠高血圧症候群では、重症化すると母体や胎児の命に関わることがあり、帝王切開分娩になる確率が高くなります。妊娠糖尿病では巨大児のために帝王切開分娩となることがあります。
難産の場合
高齢出産の場合、子宮頸管(子宮の下部)がやわらかくなりにくいほか、産道が硬い、陣痛が弱い、母体の体力の消耗が激しいなどの状況が起こりやすくなります。
このため、分娩の進行に時間がかかる難産になりやすく、母体や赤ちゃんへの安全のために、途中で帝王切開分娩に切り替える場合があります。
帝王切開分娩のリスクは?
帝王切開術は、腹部にメスをいれ切開して赤ちゃんを取り上げる開腹手術です。そのリスクについて詳しく見てみましょう。
合併症のリスク
経腟分娩とは異なり、帝王切開術は開腹手術です。
開腹手術に伴うリスクとして最も危険なものは、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)という厄介な合併症です。下肢に血栓ができて、それが血管を通って肺に到達し、命の危険にさらされることもあります。ほかには、腹腔内の癒着や、手術に伴う感染症、また一般に経腟分娩よりも出血量が多くなります。
麻酔法について
帝王切開術の麻酔方法は、全身麻酔と脊椎(せきつい)麻酔、硬膜外(こうまくがい)麻酔があります。それぞれの麻酔の方法と問題点を説明します。
- 全身麻酔
麻酔薬によって意識をなくし、痛みを感じないようにする方法です。
誤嚥性肺炎(唾液などと共に細菌を気道に誤って吸引することで発症する肺炎)や赤ちゃんの呼吸や血圧に麻酔薬の影響が出る場合があります。また、お母さんが眠っている間に赤ちゃんが誕生するので、お母さんにとっては自分で出産したという実感が持地にくいことがあります。母体に合併症がある場合や超緊急で行う場合に選択されます。
- 脊椎麻酔、硬膜外麻酔
腰の背骨の中に麻酔薬を注入し、みぞおちあたりからお尻や足まで痛みを感じないようにする方法です。多くの帝王切開術の麻酔ではこちらが施行されます。お母さんの意識はあるので、赤ちゃんの誕生の瞬間がわかりますし、赤ちゃん鳴き声を聞くことができます。
手術後、頭痛が続くことがあります。
それぞれの麻酔について、詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。
高齢出産の場合、分娩方法は選べるの?
高齢出産でも、胎児や母体に特に問題がない場合は経腟分娩の経過を見ていくことが可能です。ただ合併症がない場合でも、これまで説明してきたように難産となって結果的に帝王切開術が必要となる可能性が高年齢であるほど高まります。
経腟分娩への強い不安がある場合には、担当医や助産師とよく相談するとよいでしょう。
帝王切開術での出産が希望できる場合もあります。
ただ、帝王切開分娩だから安全とは一概にはいえないことも知っておきましょう。
帝王切開、産後はどうなる?
帝王切開による出産は、術後の痛みや回復の状態など、産後の経過が経腟分娩の場合と違ってきます。
術後の痛みや傷の回復について
手術後には、切開したおなかの痛みと、子宮が元の大きさに戻ろうとする後陣痛の2つの痛みが伴います。この痛みに対して、腰の背骨の中に通した細い管から痛み止めを持続的に注入する方法(硬膜外麻酔鎮痛法)や、痛み止めの点滴や筋肉注射、坐薬を使う方法などで痛みを和らげます。
そして、帝王切開の手術をした日の翌日(手術後1日目)には、体調に問題がなければ歩行を開始します。
おなかの傷が痛む時期ですが、寝たままの状態が続くと足に血栓(血の塊)ができてしまいます。血栓が血管を流れて肺にたどり着いてそこで詰まると、肺血栓塞栓症という病気を引き起こし、命の危険を伴います。
早めの歩行がその予防になるため、大変重要です。
術後の経過に問題がなければ、手術後2日目頃にはシャワーを浴びることができるようになり、5日目頃におなかの傷を閉じるために使われた糸や医療用のホチキス(ステープラー)を外します。抜糸が不要な場合には、傷を覆うテープを外すだけで済みます。
帝王切開の傷に関しては、こちらの記事も参考にしてみてください。
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高年齢での妊娠・出産では、帝王切開分娩の確率が上がります。
これは、年齢的に妊娠合併症を発症しやすいこと、難産になりやすいことなどが原因になりますが、もちろん何事もなく経腟分娩で出産される方も少なくありません。中には自分から帝王切開分娩を選ぶ妊娠中の方もいます。
ご自分が納得し満足できる出産が迎えられるよう、医師や助産師、家族と十分話し合うことが大切です。
参考:
・ 医療情報科学研究所(編)、「病気がみえる vol.10 産科 第4版」、株式会社メディックメディア、2018年
・「帝王切開率の上昇」(秋田県産婦人科医会)、2019年9月閲覧
・「『高年初産』について教えてください。」(公益社団法人 日本産婦人科医会)、2019年9月閲覧
・「麻酔方法の種類」(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院)、2019年9月閲覧
・「呼吸器の病気 A-12感染性呼吸器疾患 誤嚥性肺炎」(一般社団法人 日本呼吸器学会)、2019年9月閲覧
・「産科救急への対応 vol.38 No.5」(日本臨床麻酔学会誌 )、2019年9月閲覧
・「⑨ 脊髄くも膜下腔に麻酔の薬が入ってしまうこと(高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔)」(日本産科麻酔学会HP)、2019年9月閲覧
・「帝王切開の麻酔 Q&A 日本産科麻酔学会 Q11. 手術のあとは痛くありませんか?」(一般社団法人 日本産科麻酔学会)、2019年9月閲覧
写真提供:ゲッティイメージズ
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