トモニテ
楽しく食事する家族

小児科医・高橋孝雄先生が伝える「最高の子育て」⑥

小児科医として、また父親として多くの子どもと向き合う高橋孝雄先生。悩みの尽きない子育てにおいて「子どもの力を信じる」ことの大切さを考え続けてきました。著書『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』から、すべてのママ・パパに伝えたい子育て論をご紹介します。
小児科医として、また父親として多くの子どもと向き合う高橋孝雄先生。悩みの尽きない子育てにおいて「子どもの力を信じる」ことの大切さを考え続けてきました。著書『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』から、すべてのママ・パパに伝えたい子育て論をご紹介します。

食べ物で頭がよくなることはありません。 楽しく食べることが、なによりも大事です。

「子どもになにを食べさせたら、頭がよくなりますか?」

「DHAが豊富な青魚がいいそうですね」

「ココナッツオイルを食べると記憶力がよくなるってほんとうですか?」

「ギーというインドのバターみたいなのがいいそうですが」

「ビタミンDが脳のシナプスをつなぐってほんとう?」

子どもの健康を気づかい、毎日の食事で工夫したいという心がけは素晴らしいと思います。しかし、情報に振り回されて過度に気にしすぎると逆効果にならないでしょうか。

小児神経科の専門医として、てんかん発作のあるお子さんを治療することも多く、ごく稀には、糖質を制限して脂質を摂ってもらうケトン食をすすめることがあります。しかしこれは、通常の薬が効かない重いてんかん発作を抑えるためのもの。健康な子どもに糖質を控えさせ、過剰な脂質を摂らせても、脳神経のシナプスの働きが改善するとか、頭の回転がよくなるということは、ありません。

青魚に豊富に含まれるDHAにしても、すでにお話ししたように、少しでも不足すると深刻な病気になるとか、頭が悪くなるなんていうことはありません。みなさん、健康ものをあつかうテレビ番組の情報に振り回されすぎじゃないですか。

昔ながらの和食を食べさせると賢い子どもに育つ、なんていかにも正しそうな説もありますが、これにも根拠はありません。ソーセージを食べようが、フライドチキンを食べようが、焼き魚と出し巻きを食べようが、それは嗜好の問題であって、頭がよくなるということはないのです。

ココナッツオイルやギーは、認知症を予防する食事としては注目されていますが、子どもはまだまだからだをつくっていく途中。高齢者の脳を活性化させるものが、そのまま子どもにもいいかどうかはわかりません。

子どもの食生活については、情報が錯綜していてどれが正しいのかまちがいなのかも、判断しづらい状況ですが、現代の日本で通常の生活をしている限り、特定の栄養素が欠乏したせいで病気になることはまずないです。

子どもにはいっさい添加物を食べさせたくない。できれば砂糖もとらせたくない。野菜も肉もオーガニックじゃないと不安で……。

こんなふうにこだわりを持つおかあさんもいますが、子どもに無理強いするのはいかがなものでしょう。子どもがちいさいうちは「これがわが家のスタイル」でいいのかもしれませんが、小学校に上がるころになると、子どもにだって子どものつきあいがあります。それにたとえからだに必要なビタミンや自然食品であっても、必要量の何倍も摂ってしまうと、過剰摂取で中毒になることだってあります。

たとえからだに必要なものでも過剰に摂れば害になる、というお話をしましたが、摂りすぎ注意と言われるファストフードや添加物でも、たまに食べておいしいなと思うていどなら、からだの害になることはまずありません。食品パッケージに記載されている原材料名や栄養成分表示に目くじらをたてて、神経質になりすぎるのはつらくないですか?

食事でいちばんたいせつなのは「楽しく食べること」だとぼくは思います。かなうなら、家族そろって。「おいしいね、このおイモなんて名前?」などと会話しながら食べられればいいですね。ジュースで乾杯! ママはワイン、パパはビールもいいですね。頭がよくなるから、とブロッコリースプラウトばかり食べさせられたり、苦い青汁を飲まされたりしたら、楽しいはずの食事がいやな時間になりそうです。

料理が苦手で凝ったものも作れない。栄養学の知識もほとんどない。そんなことが原因で、子どもの成績が伸びなくなったり、アトピー性皮膚炎になることは、ありません。栄養バランスに気をくばるのは賛成ですが、それがおかあさんのストレスにならないことを願います。毎日のごはんですから、もう少しだけ肩のチカラを抜いていいのですよ。デパ地下の惣菜だって冷凍食品だって、みんなで笑いながら食べたら、それがごちそうです。

写真提供:ゲッティイメージズ

※当ページクレジット情報のない写真該当

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