小児科医・高橋孝雄先生が伝える「最高の子育て」⑩
上手な言葉がけをすることで、子どもの共感力は育ちます。
自己肯定感と意思決定力を身につけ強くしなやかに生きていくために、子どもに養ってほしい第3のチカラは「共感力」です。では、共感力(エンパシー)とはいったいなんでしょう。簡単に言えば、誰かの気持ちに寄り添い、自分のことのように歓んだり悲しんだりできることです。
子どもに共感力を持ってほしいと思うなら、まずは大人が子どもに共感することです。心から。
子どもが道で転んだとします。ひざがすりむけて血がにじんでいます。「痛いよ~」と泣き叫んでいるわが子に、おまじないのように「痛くないよ、がまんできるよ!」と唱えるおかあさんがいます。気持ちはわかるのですが、それでは共感力は育ちません。「痛いよね、びっくりしたね、だいじょうぶ?」とその状況を代弁しつつ、共感の相槌を打ち、さらに心配しているよと伝える。このように子どもに心から共感できるのは、たいせつな母親力だと思います。
大人の悪い癖で、子どもの行動を大人の尺度で批評しがちです。子どもたちが求めているのは批評や常識ではないのです。子どもに寄り添った言葉がけが、共感力を育むことを知っておいてください。
共感することが苦手と言われる発達障害を抱える子どもたちでも、関わる大人がていねいに気持ちを代弁したり、寄り添う言葉をかけたりするうちに少しずつですが共感力が育まれていきます。
共感力といって最初に思い浮かべるのは、女の子たちの会話ですね。お友だちが着ている洋服をじっと見て「それ、かわいい!」と声をかけています。ちいさな女の子から成人女性まで「かわいい」が共通言語です。「かわいいね」と声をかけられたら、「ありがとう」と返事する。これが共感のお手本ですね。
なにか相手にうれしいことがあれば「よかったね」。
相手の持ちものや洋服を見て「それ素敵。かわいい」。
いつもと様子がちがったら「だいじょうぶ?」。
女性の会話には、共感を生むフレーズがたくさんちりばめられています。
女性たちが日常的に「共感」をコミュニケーションの基本手段に使っているのに対して、男性の共感力は女性に比べて弱く、自己肯定感も傷つきやすく折れやすいのです。これも遺伝子が決めた個性のひとつといえます。
ひとさまの気持ちを感じ取るのが苦手な男たちも、たとえば自分が応援するチームや選手が出場するスポーツ戦では、共感力つまりエンパシーがフル稼働するのです。ルールに従って競い合い、勝敗を決める、という構図が、社会的なルールを重んじ、努力を重ねて競争に勝つ、ということを直感的に好む男性にとってわかりやすいものなのです。
冬季オリンピックで、逆風にあおられて失速したジャンプ競技の選手がいれば、一緒に悔しがり、もらい泣きすることもあります。誰かのミスに心を寄せ、メダル獲得に快哉を叫ぶ。その一瞬一瞬がエンパシーにあふれています。勝負の行方もさることながら、エンパシーを味わいたくて声援を送っている人もたくさんいると思います。
サッカーや、ラグビーなどのワールドカップでも、なぜ、あんなにも観客が熱くなれるのでしょう。決定的なゴールの瞬間には、知らないひととも肩を抱き合って歓びますよね。男女にかかわらず、あれが共感力なのです。
よく「男の子は宇宙人みたいだ」と、戸惑うおかあさんがいますが、そこは「ふ~ん、そうきたか」と見守るほうがうまくいくのです。よけいな言葉とか、説教めいた話は響かない。うまいタイミングで「ん? それで?」「どうしたのかな?」と相槌を上手に打てば、宇宙人の息子が地球におりてきてくれます。ほめるときもあまり難しく考えないで「そうだね」「やったね」「そのとおりだね」と共感をこめればいいのです。
共感力を高めるマジックワードをひとつだけ選ぶとしたら、「だいじょうぶ」だとぼくは思いますね。語尾を少し上げて気づかう心を伝えてもいいし、やや下げて励ます気持ちを伝えてもいいと思います。
おかあさんは女性として生まれもった共感力を駆使して、男の子の共感力が高まるように声をかけ、見守ってあげましょう。「息子の気持ちがわからない」という悩みから解放されるきっかけになるかもしれません。
写真提供:ゲッティイメージズ
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