【妊娠後期のトラブル】妊娠高血圧症候群 (妊娠中毒症)
こんな症状
妊娠後期にあらわれる最も気をつけたい合併症のひとつが妊娠高血圧症候群です。以前は妊娠中毒症と呼ばれていました。
発生頻度は全出産数の4%前後。原因についてはまだ不明ですが、胎盤の血管内皮細胞の障害が関与していると考えられています。妊娠が終われば軽快することが多い症状なことから、「母体が妊娠によるさまざまな変化に適応できずに起こる中毒症状」と、とらえられていました。主な症状は高血圧で、尿たんぱくを伴うことがあります。妊娠前からの高血圧も高血圧合併症妊娠として含まれることになりました。
尿たんぱくだけの場合は妊娠性たんぱく尿といい、妊娠高血圧症候群ではありません。
早めに対応し重症化を防ぐ
高血圧に、尿たんぱくがあらわれた場合は要注意です。また、むくみ(浮腫)は妊娠高血圧症候群の前段階の注意すべき症状です。早めに治療をすれば重症化を防ぐことができることも。
症状が進むと、頭痛、めまい、胃痛、吐き気、さらには子癇といって、けいれん発作が起こることがあります。この発作は、全身がけいれんして意識を失うこともあり、母子ともにきわめて危険な状態となります。
高血圧はなぜいけないの?
妊娠すると胎盤に血液を送るため、ふだんよりは血圧が上がりぎみになりますが、妊娠高血圧症候群では、胎盤の血管の変化によって血流が悪くなるため、十分な血液を送ろうとすることから、さらに血圧が高くなる(高血圧)と考えられています。胎盤の血流が悪くなると、胎児の発育に影響を与え、常位胎盤早期剥離をまねくことも。
妊娠高血圧症候群があると胎児の発育が悪くなります。また、母体を守るため早く出産しなければならないことも多く、低出生体重児で生まれる可能性も高くなるのです。
また、妊娠高血圧症候群では、血管の細胞にナトリウムと水分がたまるため、血管から組織へ水分が必要以上に漏れ出たり、腎臓からの水分濾過が減少します。予防のためには、塩分の適切な制限が必要です。しかし、水分の制限は、循環する血液量を減らしますが、組織へ水分が漏れる量は増加しているので、かえって悪化します。
妊娠高血圧症候群が進んで重症化すると、血管が収縮して血液の循環が悪くなり、胎盤の動脈もふさがれて機能しなくなるため、胎児に十分な血液が流れなくなります。赤ちゃんの発育を妨げ、早産をまねいたり、出産時に赤ちゃんが酸欠を起こして仮死状態になることもあります。また、母体に高血圧が起こると、脳出血、けいれんなど重い合併症を起こした時に生命にかかわることも。身内に高血圧の人がいる場合は、とくに気をつけましょう。
発症早期は食事療法と安静で経過観察可能
健診で、高血圧や尿たんぱくなどの症状を指摘されたら、塩分を抑えた食事を心がけ、減塩(1日の塩分の摂取量は7〜8g)しましょう。たんぱく質も多めにとります。
また、カルシウムには血圧を下げる効果があるので、つとめてとるようにしましょう。
心身の休養も、大事です。からだが疲れすぎたり、ストレスをためたりしないよう、十分な睡眠をとりましょう。場合によっては、入院をして安静を保つことが必要です。
妊娠高血圧症候群(HDP)の定義と分類
「妊娠高血圧症候群(HDP)の定義および分類(日本妊娠高血圧学会、日本産科婦人科学会、2018)」より抜粋
定義:
妊娠時に高血圧を認めた場合、妊娠高血圧症候群(HDP:hypertensive disorder of pregnancy)とする。
分類:
妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧、加重型妊娠高血圧腎症、高血圧合併妊娠に分類される。
症候による亜分類:
「重症について」
次のいずれかに該当するものを重症と規定する。なお「軽症」という用語は原則用いない。
- 血圧が次のいずれかに該当する場合:収縮期血圧≧160mmHg 拡張期血圧≧110mmHg
- 妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において、母体の臓器障害または子宮胎盤機能不全を認める場合
※蛋白尿の多寡による重症分類は行わない。
<参考>「高血圧治療ガイドライン 2019」より抜粋
高血圧基準値:
診察室血圧値は140/90mmHg 以上、家庭血圧値は135/85mmHg 以上、24時間自由行動下血圧値は130/80mmHg 以上の場合に高血圧として対処する。
妊娠高血圧症候群を発症しやすいタイプ
太りすぎでコレステロール値が高いと、高血圧になりやすく、リスクも高まります。
35歳以上の高年齢出産、15歳以下の若年出産。また、母体が出産に慣れていない初産婦も高リスク。
腎臓病、糖尿病、甲状腺の病気を発症している人、既往症がある人、家族に既往症がある人。
甘いものやしょっぱいものが好き、カフェインやアルコールなど嗜好品を多くとる人。
労働時間が長く睡眠不足ぎみの人、ストレスが多い人、立ち仕事が多い人は妊娠したからだに負担をかけます。
ふたごや三つ子などの多胎妊娠では、母体への影響も大きくなるため、発症しやすくなります。
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写真提供:ゲッティイメージズ
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